東京・池袋で一昨年4月、高齢者が運転する自動車の暴走により母子2人が死亡、9人が重軽傷を負った事故で、東京地裁は90歳の被告に禁錮5年の実刑判決を言い渡した。これを機に、高齢者による重大事故を防ぐ対策を一層進めていかなければならない。
最大の争点は事故原因だった。自動車運転処罰法違反(過失致死傷)の罪に問われた被告は、一貫して車の異常が原因だとして無罪を主張した。
だが事故前後の検査で車に異常は見つからなかった。事故時にブレーキランプは点灯しなかったという目撃証言も複数あった。被告の主張は説得力に欠けると言わざるを得ない。
地裁は被告がブレーキとアクセルを踏み間違えたのが原因と認定。被告が高齢で体調が万全でないといった事情を踏まえても、長期の実刑を免れないとしたのは当然である。
命を突然奪われた母子の無念や、愛する家族を失った遺族の悲しみは察するに余りある。判決は被告に対し「過失を否定する態度に終始し、深い反省の念を有しているとは言えない」と断じた。被告はこれを重く受け止め、被害者や遺族にしっかり謝ってほしい。
全国的に高齢化が進む中、加齢に伴う身体機能や認知機能の低下を踏まえた事故防止策の強化が求められる。75歳以上の運転者が最も過失の重い「第1当事者」になった死亡事故は昨年、全国で333件に上った。
過去3年で見ると全体の14%前後で推移している。75歳以上の免許保有者は、団塊の世代も加わる2年後に約717万人に達する見込みで、事故の増加が懸念される。
原因はアクセルやブレーキ、ハンドルなどの操作ミスが最も多く、全体の3割近くを占める。国土交通省は、事故発生時のアクセルやブレーキなど運転状況を記録する装置や自動ブレーキの普及に向けた取り組みを進めている。国と自動車メーカーなどが連携し、安全技術の進展もさらに加速させてほしい。
運転技能の衰えをチェックすることも重要だ。現在、75歳以上の運転免許更新には、認知機能検査を受ける必要があり、認知症と診断されると免許取り消しや停止となる。さらに来年6月までには、一定の違反歴がある場合、運転技能検査(実車試験)を義務付ける改正法が施行される見通しだ。
池袋の暴走事故をきっかけに運転免許を自主返納する動きが広まった。事故が起きた一昨年の返納は60万件を超えて過去最多となり、75歳以上が6割近くを占めた。
ただ交通手段の乏しい地方では、買い物や通院で免許を手放せないと考えている高齢者も少なくない。自動車に代わる手段の整備が大きな課題だ。免許を返納しても暮らしていけるための公共交通機関のサービス充実や料金支援も必要だ。
出典元:秋田魁新報 https://www.sakigake.jp/news/article/20210905AK0010/
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