● 定年後の起業には それなりの「覚悟・準備」が必要
筆者は現在69歳だが、60歳で定年を迎えるまではひとつの会社で働き続けた。ずっとひとつの会社に居続けたわけだから、リスクを取らない性格と思われるかもしれないが、定年後はそれまでと一転して起業したわけなので、それほどリスクを取ることが嫌いという性格でもないと自認している。
筆者は常々、定年後に再雇用で働くことは積極的に賛成していない。サラリーマンであれば最悪の場合でも公的年金で生活できるのだから、多少はリスクを取って自分の好きなことをやるために独立した方が楽しいと考えているからだ。自身の体験に照らし合わせてみても、サラリーマン時代はあれほど仕事が憂うつだったのが、独立起業した途端にそれまでとは180度仕事観が変わり、毎日の仕事が楽しくて仕方ないという状態になったから面白い。
起業については筆者自身必ずしも順風満帆で来たわけではなく、いろいろ苦労することも多かったが、自分で選んだことではあるし、何よりも好きなことを仕事にしているので、サラリーマン時代のようなストレスはなかった。筆者自身も定年起業に関する本は何冊か書いたが、それなりの覚悟と準備が必要だ。
筆者は定年後半年間の再雇用を経て独立起業したので、転職の経験はない。定年時に同業他社からのお誘いはあったが、それまでやっていたのと同じ業界で同じ仕事をするのが嫌だったので、丁重にお断りして起業した。
実は起業と同様、定年後の転職や再就職についても大きな誤解が存在する。確かに日本の企業においては、会社を中途退職して転職する場合、年齢的に30代までがせいぜいで、40歳を過ぎてからの転職は難しいとされている。
それはいうと、この考え方の根底にあるのは最近流行の言葉で言えば「メンバーシップ型雇用」を前提としているからだろう。単なる業務スキルだけではなく、その組織独特のルールや社風になじめるのは若い人の方が良いのは間違いない。したがって、定年後の再就職は困難と考えるのは無理のない話だ。
諸外国に比べて我が国ではスタートアップ企業が少ないといわれているものの、単純に新設の法人数だけを数字で見ると月間1万社前後の企業が設立されている。本業の部分については非常に優れたビジネス力を持っているものの、営業力が弱かったり、経理の専門家が少なかったり、コンプライアンスに詳しくなかったりというケースも多く、スタート当初は外部の専門家に業務を委託するケースが多いだろうが、次第にビジネスが拡大してくると自社の中で本業をサポートするための業務インフラを構築する必要性が出てくる。
多くのサラリーマンは「自分はしょせんサラリーマンだから専門性など何もない」と卑下するが、決してそういうわけではない。早い時期に出世して役員になってしまった人ならしれないが、現場でひとつの仕事を長くやっていた人はそれなりのスキルができ上がっている。
そもそも営業であれ、経理であれ、ひとつの分野の仕事を10年もやっていれば、それは世の中では立派なプロである。
実は定年後に再雇用というのは比較的新しいシステムで、昔は定年になった後、年金を受け取り始めるまでの間、5年か10年は別の会社で働くのは普通であった。その場合、働き場所をそれまで勤めていた会社が紹介してくれるわけでも、ハローワークで紹介してくれるわけでもなく、多くの人が自分のコネやツテで仕事を得ていたのだ。
昨今65歳までの雇用機会提供が事業主の義務となり、今年からは70歳までの就業機会の提供が努力義務化されたため、誰もが自分で仕事を探すということをやらなくなってしまった。
ところが今から20年、30年前は定年後の第二の職場は自分で見つけるというのが一般的であったため、多くの人は現役時代からそういう人のつながりを持つ努力をしていたのだ。
普通サラリーマンが仕事を頑張るのは、会社での評価を上げて出世するためにやると考えがちだ。それはその通りなのだが、年齢が50歳を過ぎてくると、相当頑張ってもそこからの昇格は難しいだろう。
多くの人は会社での出世は仕事をするようになる。ところがいくつになっても自分が担当する分野で高い実績を上げ続けていけば、必然的に業界の中でも話題になったり名前を知られたりすることが出てくる。筆者自身も現役時代最後の部署は会社の中では注目されず、どちらかといえば窓際っぽい部署であったが、それだけに外部の人との交流も多く、その分野で頑張ったことで定年時に同業他社からのお誘いをいただいた。このように発想を変え、社内での出世ではなく、自分自身の専門性を高めることで外部から注目されるまで頑張るということも重要ではないかと思う。
全文はソースにて
出典元:https://diamond.jp/articles/-/283139
コメント