20代~50代の「孤独死」割合に衝撃…「親が亡くなった後」の残酷

臨床心理士の桝田智彦氏が「セルフネグレクト」と「8050問題」について解説し、ひきこもりの実情を紐解いていきます。

今のところ、ひきこもりと無縁な生活を送ってきていれば、「閉じこもっていても、なんだかんだ生きているのだから問題ないのでは?」と思う方もいるかもしれません。

この問いに対しては、ひきこもり、ひきこもりによる「孤独」はときに、その人の命をも奪う重大な問題となりえることを申しあげたいと思います。

ひきこもりを日本のどこかで起きている社会問題と曖昧に考えるのではなく、ひきこもりは「命にかかわる孤独の問題」であると、考えていただきたいと思います。 その意味でも、ひきこもりは他人事ではないのです。

2018年に出版された『セルフ・ネグレクトの人への支援:ゴミ屋敷・サービス拒否・孤立事例への対応と予防』によると、セルフネグレクト状態に陥ると、単純にやる気が起こらなくなるだけでなく、次のようなさまざまな状態が現れることがわかっています。

(1)不潔で悪臭のある身体状態(人並みな身繕いをしない)
(2)不衛生な住環境(ゴミを捨てない・害虫を駆除しない)
(3)生命を脅かす治療やケアの放置(疾患の治療や服薬を中断・拒否する)・奇異に見える生活状況(破れた服を着て外出する)
(4)不適当な金銭・財産管理(日常的な買い物や、公共料金・家賃の決済など、自分の財産管理が適切にできない状態)
(5)地域の中での孤立(近隣住民との関わりを拒否する、家にひきこもるなどの社会的孤立)

これら(1)~(5)を見てもわかるように、セルフネグレクトは、生きることを放棄している状態であり、別名「穏やかな自殺」とも言われています。

実際、一般社団法人日本少額短期保険協会孤独死対策委員の2019年の『孤独死現状レポート』では、60歳未満の現役世代(20代~50代)の孤独死は男女ともに死因の全体の約4割を占めているのです。 この異常死のなかで孤独死はなんと4777人で、36%にも及ぶというのです。

これらすべてがセルフネグレクト状態にあったとはもちろん言えませんが、ただ、孤独が人を追いつめ、死に導いていくことがおわかりいただけたかと思います。 長期化するひきこもりによって、ひきこもりの方々を支える親が80代になり、その80代の親の年金で50代の子どもを支えていかなければならないというのが、この問題の中心的テーマと言えます。

さらに深刻なのは、親が亡くなったあと、ひとり残された子どもが、収入が途絶えて、餓死する可能性がある点でしょう。 内閣府が行った中高年のひきこもりの実態調査によると、40歳~64歳のひきこもりの推計数が61万3000人。 そのうち、生計を立てているのが、ひきこもっている「本人」が約30%で、「父親」が約20%、「母親」が約13%です。 つまり、ひきこもりの実に3割強の人たちが親の収入に頼っていることになります。

本人だけでなく、当然、親御さんたちの最大の不安でもあり、カウンセリングにおみえになる70代、80代の親御さんたちもその多くが「私が亡くなったあと、子どもがどうなるのか。

親が亡くなって、年金という収入が途絶えれば、生活保護などの社会保障に頼ることもできそうですが、最近では、国も地方自治体もこれまでにないほど生活保護費の削減に「熱心に」取り組んでいるように感じます。

生活保護の受給許可が下りるのは、税収の低い地方自治体ではかなり厳しいのが現状です。 収入がゼロとなり、ひきこもりで働くこともできないし、たとえ、働きたいという気持ちがあっても「50歳の壁」に阻まれるなどして、中高年の方たちが就職先をみつけることは至難の業と言えます。

このようなお話をすると、餓死するほどの状況になるまえに誰かに相談したり、助けを求めることはできないのか──。

ひきこもりが長期化すればするほど、社会とのつながりは失われていき、社会での行き場も、居場所もなくなって情報からも隔絶され、孤立していきます。 そうなったときには、年金から医療費や介護費を捻出すればいいわけですが、ひきこもりの子どもの生活費も年金で賄(まかな)っているわけですから、金銭的な余裕がなく、病院へも行けず、介護サービスも受けられないまま、親子が共倒れするケースも現に起きているのです。

2018年3月5日付けの北海道新聞が「母と娘、孤立の末に札幌のアパートに2遺体82歳と引きこもりの52歳「8050問題」支援急務」として、ひきこもる中高年とその親が孤立死したという事件を伝えました。

親子ともに社会福祉にも医療にも繋がりがなく、前年12月の中旬に母親が、同年末に娘さんが低栄養状態による低体温症で亡くなるという痛ましいものです。 これは氷山の一角に過ぎず、今後、支援策を整備しなければ同様の孤立死は増え続けるものと思われます。

これらのことからも「8050問題」はひきこもりの本人にとっても深刻であり、それだけではなく、親をも巻き込みかねない大問題なのです。

出典元:https://gentosha-go.com/articles/-/37684

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