「何が起きているのか表沙汰になることはあまりありませんが、高齢者施設で働く多くの職員が『高齢者の性トラブル』に苦慮しています」 と話すのは、介護現場で働いた経験もある淑徳大学の結城康博教授だ。
ところが、なかには入所者の家族にすらほとんど明かされることなく、施設内の職員だけで内々に処理している問題があるという。
夜勤の介護士が2時間おきに行っている施設内の見回りをしていると、加藤さんが中山さんの個室から出ていくところを発見。部屋の中を見ると、中山さんの衣服が乱れ、ベッドシーツには男性の精液らしきものが付着していた。加藤さんが中山さんとなんらかの性的な関係をもったことは明らかだった。
現場の状況からみるとレイプ未遂も疑われたが、本当のところ何が行われたのか、確かめようがなかった。性行為があったとしても、加藤さんが「合意だった」と言った場合、その真偽を中山さんに確認することは不可能だった。
加藤さんは杖を使えば自由に歩きことができ、認知症の症状もない比較的元気な男性。
83歳と高齢ながら、性的関心は衰えておらず、以前、女性のヌード写真が載っている雑誌が部屋に置かれているのを介護士が目撃したこともあった。身体機能に問題はないものの、徘徊などが目立つようになったことから84歳の夫が入所を決めた。
夫は現在一人暮らしをしており、2か月に1回程度面会に訪れるが、中山さんは夫のことを認識できなくなっていたという。そんな中山さんに加藤さんは好意を抱き、日頃から何かと話しかけて隣に座るなどしていた。
施設の職員たちはそんな2人に気づいてはいたものの、親しい茶飲み友達のように楽しく過ごしている様子だったので、心配はしていなかった。身寄りのない加藤さんには、本人への厳重注意を行ったが、中山さんについては本人が自覚しておらず、その後も加藤さんと親しく接していたため、わざわざ事を荒立てるようなことを夫に報告しても何にもならない。
そのため施設職員が個人で抱え込んで苦悩することも珍しくない。確かに、高齢者同士が本当にお互いに想いあい、合意の上で行われている行為だとしたら、施設内でのこととはいえ職員は立ち入るべきことではないかもしれない。
お互いの伴侶が健在な場合は話が違ってくるが、それとて、一職員が踏み込んでいい問題なのか実際、有料老人ホームで、お互いに別の夫婦として入居していた高齢の男性と女性が、物置のような場所で性行為をしていたところを職員が目撃した例もある。
有料老人ホームは介護施設と違い、高齢者住宅といったプライベート空間だということもあり、発見した職員は見てみぬふりをし、職員同士で情報共有をしただけで、家族には報告せずに終わったという。
4年後には、団塊の世代が全員75歳以上の後期高齢者になる「2025年問題」が待ったなしでやってくる。施設側だけに押し付けるのではなく、いつか親や自分が施設にお世話になるだろう私たちも広く考えるべきときがきたのではないか。簡単に答えが出る問題ではないが、事実から目を背けないことである。
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