今は亡き筆者の祖母は認知症を患っていた。当時、実家で暮らしていた僕は20代半ばで、祖母のいたグループホームへ50代後半の父や母と共に定期的に足を運んでいたのを思い出す。
年月は経ち、僕は40代目前となり、両親も前期高齢者となった。 医師などの専門家による本書は、タイトルのとおりマンガを交えながら、認知症の症状を優しく解説する1冊だ。
その兆候を学んでおくことには意味がある。 筆者の祖母がまだ、グループホームへ引っ越す前の話だ。 両親と共に実家で暮らしていた筆者は、母から「おばあちゃんに『お金を盗んだでしょう』と言われた」と聞いたことがある。母がひどく落ち込んでいたのも思い出すが、この症状について、本書は認知症の初期に見られる「物盗られ妄想」だと解説する。
本人は「自分は認知症になりたくない」「しっかりしている自分を取り戻そう」という不安から「大切な物を自分できちんとしまっておこう」と張り切っているが、意識と行動が伴わず「自分がなくしたはずがないから、ほかの誰かが盗んだのではないか」と「被害妄想」に陥るときがあるようだ。
こうした場面に出くわしたときは「できるだけ心に余裕を持って対応」してほしいと本書はすすめる。 認知症を抱える本人に「盗んでいない」と反論すると「ますます疑わしい」と妄想が強くなるケースもある。
ある日、グループホームにいた筆者の祖母は不思議なことをつぶやいた。祖母は70代であったが「女学校の友達が会いに来た」と語ったのだ。元々、祖母は戦時中に出身地の岐阜県から筆者の住む埼玉県へ疎開した経験を持っていたので、その発言を聞いたときは「出身地での記憶を思い出しているのだろう」と考えた。
本書によると、この症状は「見当識障害」と呼ばれるものだ。 男性では「働き盛りだった30~40代に戻るケース」も多く、「認知症による不安を解消するため、自分がはっきり分かる時代や、元気で充実していた古きよき時期に戻る」と推測されている。
本書は「安心できるように笑顔で声をかけ、ご本人の状態をよく見て話を聞くこと」が大切だと解説する。もし、家族が不安を抱えているのであれば、認知症の人たちが見ている世界と現実のギャップを優しく埋めるのが、私たちに求められる役割といえる。
今回は筆者の祖母に関するエピソードをもとに内容を紹介したが、実際の書籍では、マンガによる実例と詳しい解説で認知症の実態を学ぶことができる。 認知症を抱える人たちの多くは「不安・恐怖・孤独を感じ、混乱の中で生活しています」と本書は伝える。
文=カネコシュウヘイ 引用元:https://ddnavi.com/review/1054072/a/
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