葬儀にまつわる多くの情報を書籍やYouTubeなどを通して提供している佐藤信顕さん。弔いの現場からは、どのような景色が見えているのか、時代の変化なども踏まえて語っていただいた。
――日本では、いわゆる「孤独死」が増加傾向にあると言われ、社会問題視されています。佐藤さんは、葬儀に携わる仕事を長くされていますが、現状をご覧になっていますか。
孤独死への恐怖の大部分は、発見遅延によって部屋で一人朽ち果てていくイメージに集約されているように思います。たとえば、健康面の問題が特になさそうな親の家に、毎日電話で安否確認をしたりはしないでしょう? 枕元で子どもに看取られて死にたいと思う人も多いかもしれませんが、発作を起こして急に死んでしまえば、仲のよい家族がいようがいまいが、一人で死ぬわけですからね。
――それと同時に、孤独死を恐れる人たちの心理として、孤独に死に、誰にも死後のあれこれの手配をしてもらえない、という気持ちもあると思います。
前提としてお伝えしておきたいのが、完全に天涯孤独というケースは実際にはかなり少ないということです。 疎遠になっているというだけの話で、いわゆる法的な親族に当たる、六親等内の血族や配偶者および三親等内の姻族が誰もいない、という事態は稀です。
仮に一人で死んで、一見するとまわりに面倒を見る親戚などがいそうもない人でも、大半は探せば誰かしら責任を持つべき人が見つかる。
–極端なケースとして、本当に一人も親族のいない人が亡くなった場合、遺産や葬式などはどのような形になるのでしょうか。
ある程度の財産を持っている人であれば、後見人がいることが多いですね。もし、そうした人がおらず、遺言も残されていなければ、選任された専門の弁護士が財産の処分を任されることになるでしょう。ある程度元気なうちに、しかるべき人にそのへんの話をしておいた方がいいと思いますよ。
――では、反対にお金がない人はどうなるでしょうか。
公費で賄うことになり、ケアワーカーや福祉関係者が、できる範囲で火葬から埋葬まで取り仕切ってくれます。生活保護などを受けている家庭も、葬祭扶助というものがあって、自治体が葬儀費用の面倒を見てくれるでしょう。
――少子高齢化社会が進む中で、死者を弔う葬式という儀式に、何か変化は見られますか。
人口動態で見ると、かつては親2人に対して、子どもが3~4人というピラミッド社会が当たり前だったわけですが、今は親2人に対して子どもが1~2人程度の逆ピラミッド社会になっています。つまり、葬式を盛り上げる方の頭数が減ってきているので、賑やかにならないわけです。
――佐藤さんの記憶では、いつ頃から葬式をめぐる状況は変わり始めたでしょうか。
やはり、まずは1990年代のバブル崩壊で一気に変わりましたね。それから、2008年のリーマン・ショックの影響も非常に大きかった。わかりやすく社会が不景気に陥るような出来事が、葬儀を取り巻く状況にもダイレクトに影響してくるわけです。
具体的に言えば、家族葬や、葬式を省いて火葬のみという選択をするご家族が増えた。 親の弔いをする息子の友だちが減れば、自ずと参列する人も減り、葬儀の規模にも影響します。
葬儀の形も信仰も、結局は生活の営みの中のものですから、その変化に従って変わっていくのは当然でしょう。
――そうすると、身も蓋もない言い方をすれば、基本はすべて経済の話である、と。
経済と人の数、これに尽きます。 近年、「人の心が変化した」とか「宗教心がなくなった」といった話がメディアを通して盛んに吹聴されていますよね。 葬儀の仕事をしている者の実感としては、そこに大きな変化はないように思えます。
――人口動態と言えば、『サザエさん』ではありませんが、かつては一つの家に複数世代が同居するかたちが当たり前のように存在しました。 そうした居住形態が葬儀に与える影響はありますか。
親や親族が地方にいるとして、盆暮れに帰って墓参りをするくらいの関係性が保てているならば、問題ないはず。葬式はみんなで一緒にやるものですから、弔う側の足並みが揃わないと難航するのです。