bizSpa!フレッシュより
トレーニングジムやボーリング場、職場など、聞いてもいないのに積極的に“指導”してくれる「教え魔」という存在が注目されている。明確な統計データはないものの、基本的には教え魔は中高年男性に多く、女性をターゲットに自身の知識を披露しているらしい。
中高年男性と言えば、非常にクレーマーが多いことにも注目したい。教え魔にしろクレーマーにしろ、他人に配慮せずに高圧的な態度を見せることに類似性があり、どちらも中高年男性に多いことは興味深い。男性の問題に詳しい、京都産業大現代社会学部現代社会学科教授・伊藤公雄氏に話を聞いた。
まず教え魔・クレーマーと接する際に配慮すればポイントを聞くと、「適度に自分の主張を伝えながら、相手の意見もキチンと尊重する“アサーティブコミュニケーション”を意識すると良いでしょう」と答えるも、「アサーティブコミュニケーションは結構なテクニックが求められるため、簡単に身に着けられるものではありません」と一筋縄ではいかないという。
結局は当人に教え魔・クレーマーになっていることを自覚してもらうしか現状の打開策がないようだが、「教え魔・クレーマーになるような中高年男性は、“男性主導社会”を前提に生活してきたため、今から女性や子供と対等に接することはとても難しい」と話す。
「ちなみに、公共の場で上から目線の態度を他人に向ける男性は、日本に限った問題ではありません。数年前に支配的な言動を見せる男性を批判した『説教したがる男たち』という本がアメリカで大ヒットを記録しました。また、最近は男性が偉そうに女性を見下しながら、解説・助言する行為“マンスプレイニング”という言葉を耳にする機会が増えました。これは世界的に問題視されています」
「教え魔・クレーマーの加害者が中高年男性に目立っているように、現代の中高年男性は“男らしさ(男性性)”に憑りつかれているため、男女平等に対する価値観をアップデートできずにいます。時代の変化や立場の衰退など、以前よりも優越志向を満たすことが難しくなり、優越志向を満たす動きが激化したことが、今日の教え魔・クレーマー問題に通じているのではないでしょうか」
「本人が善意を持って教え魔的、クレーマー的な言動を見せることもありますが、それらは『(女性・子供は男性よりも劣っているから)教えてあげる』という差別を含んだ一方的な善意“慈愛的ないし好意的差別”でしかありません。男性側が『親切心で教えてやったのに!』と訴えたところで、その背景には慈愛的ないし好意的差別が潜んでおり、“善意の押し付け”の可能性が高いです」
「教え魔・クレーマーに限らず、剥奪感の男性化がトラブルに発展するケースは増えているように感じます。男性の歪んだ支配欲が事件の引き金になることは楽観視できるものではなく、男性性は早急に議論される必要があります」
「中高年男性は優越志向が強く、他人に指摘されることを非常に嫌います。さらには、『男は弱みを見せるな!』と刷り込まれており、コミュニケーションで苦労していても友達に気軽に相談できません。そもそも、気軽に相談できないために他者と信頼関係を築くことができないため、男性は女性よりも友達が少ない傾向にあります」
「また、女性はもちろん、最近の若い人は空気を読むことに長けており、高圧的な態度をとられても『うんうん』『そうなんですね』と穏便にすませようとする。その結果、男性側は自身の問題点に気付くどころか、『自分は良いことをしている』とさえ、錯覚しまう可能性もあります」
「剥奪感の男性化に苦しみ、社会的な活動に消極的な男性は多いため、本人たちに積極的な行動を促すことは安易な自己責任論につながりかねない。スウェーデンでは、不安感を抱える男性が相談できる“男性危機センター”を設置しており、政府には女性支援の施策はもとより、平行して男性支援的な政策を検討してほしいです。
“男性主導”とは言いますが、確かに男性が下駄を履かされ、甘やかされていることは事実です。しかし、男らしさの呪縛に苦しんでいる男性もおり、教え魔・クレーマーを“ただの有害な男性”と安易に消費せず、男女平等実現のための議論のキッカケになればと思います」