コミュニケーションが十分に取れない認知症の人が何かを訴えていても、それに気付くのはとても難しい。特に体の痛みやつらさは、すぐに受診するべき体調不良が隠れていることも多い。そんな認知症の人の危うい兆候に周囲の人が早く気付くにはどうしたらいいのか。自宅でも使えるヒントを、専門家に教えてもらった。
国立長寿医療研究センター(愛知県)緩和ケア診療部の西川満則医長(老年内科)は、同センター病院のほか、特別養護老人ホーム(特養)などで多数の認知症の人を診てきた。
その経験から「痛みに気付いてあげられるのは、身近にいる人。現場で痛みが疑われる場合は必ず、最も近くにいる介護や看護の人に『あなたはどう思いますか』と尋ねます」と話す。
どんな様子が気になって、痛むのではないかと思ったか。表情なのか、ふるまいなのか。いつもとどう違うのか。それに気付くのは「普段」をよく知っていて、違いが分かるからだ。
西川さんによると、認知症では痛みの有無や程度を推量することはとても難しい。いくつかの評価スケールが開発され、点数化して評価する方法が医師の間では知られているものの、こうした方法でも正確に把握するのは困難で、点数だけで痛みを評価することは勧められない。では、具体的にどのようにすればいいのか。
西川さんは何よりもまず「本人に呼び掛けて反応をよく観察する」ことを推奨する。
「安心させるように、小さな声から大きな声へ順に、名前を優しく呼んでみる。すぐにこちらを向いてくれれば強い痛みはないと思っていいが、全くこっちを見ないときは激しい痛みも疑われる」という。
呼吸の様子にも注意を払う。穏やかな息づかいなら痛みは弱いが、はあはあしたり、頑張って息をしたりするのは少し痛いのかもしれない。それが長く続いて音を伴う息づかいが現れたら強い痛みだ。
声も同様に大事だ。声を上げないときは痛みはあっても弱い。大きな声は要注意になる。表情が穏やかか、険しいか。顔をしかめたり、ゆがめたりするようなら、強い痛みが考えられる。
リラックスしているかどうかも目安になる。行ったり来たり、そわそわしたりするなら痛みがありそうだ。こぶしを握る、押しのけるような動作をするときはとても痛いサイン。全身の筋肉のこわばり方にも着目したい。
痛むのではないかと思われるとき、かかりつけ医から痛み止め薬が処方されていればそれを服用する。ただ、その際にもアドバイスがあるという。
「その薬は、飲んだ後どのぐらいで効き始めるのか、効き目がどのぐらい続くのか、医師や薬剤師に聞いてあらかじめ知っておいた方がいい」というのだ。
薬を飲んで、説明された特徴の通りに効いた場合は問題ない。一方で、効くべき時間になってもまだ痛そうだったり、効き目が続かなかったりしたときには受診するか、医師に相談するべきだという。そんなケースでは周囲が知らない間に転倒、骨折していたり、症状が典型的ではない狭心症などの心臓血管系の病気が隠れていたりする場合があり、検査、診断が急がれるからだ。
西川さんは「受診する際にはいつ頃からどんな様子だったか、痛むのではないかと思ったきっかけとその時刻をメモしておくと、痛みの原因を突き止める手掛かりになることがある」と話した。
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