人は何が原因で命を落とすのか……日本の「死因」のトップ3とは?

それは人それぞれ異なるのだが、死因統計を眺めれば、一定の傾向は見えてくる。厚生労働省が公開している死因順位の年次推移を見ると、かつては上位に胃腸炎、結核、肺炎などの感染症が多く含まれることがわかる。時代とともに、これらは顕著に減少する。

世界を見渡せば、医療水準の低い途上国での死因は依然として感染症が多い。世界保健機関の調査によれば、低所得国の死因一〇位以内のうち半分以上は感染症である。

所得が上がるにつれ、死因の上位は感染症から心疾患や脳血管疾患、悪性新生物などに置き換わっていく。

2019年のデータでは、死因の1位は悪性新生物、2位は心疾患、3位は老衰、4位は脳血管疾患(脳卒中)、5位は肺炎であり、この上位五疾患で死因の七割近くを占める。

1980年代から死因の1位を独走し、今なお増え続けているのが悪性新生物、すなわち、がんである。がんは今や、死因全体の四分の一以上を占める疾患だ。

年齢別のがん死亡率を表すグラフでは、50歳代からがんによる死亡は徐々に増え始め、70歳代以降はさらに急峻なカーブを描いて増加する。 がんは、遺伝子に何らかの異常が起き、正常な細胞ががん細胞に変わり(がん化し)、これが無秩序に増殖したものだ。

不謹慎な表現だが、医療の進歩によって人体が「長持ち」するようになったおかげで、相対的にがんで死亡する割合が増えたのだ。 また、がんによる死亡率が年々増えることに対し、「がん治療は全く進歩していない」といった指摘が見られるが、これは誤りである。

高齢化によって高齢者の割合が増えれば、必然的に「がんで死ぬ人」の数は増える。大学生一万人と、高齢者施設の入所者一万人の間でがん死亡者の割合を比較すると、後者のほうが大きくなるのは当たり前だ。

よって、がん治療が進歩したかどうかを知りたければ、年齢構成が等しくなるように調整して比較しなければならない。新たな抗がん剤が次々に生まれ、手術の質が向上し、放射線治療や免疫療法など、使える武器がますます増えてきたからだ。

生活習慣病とは、高血圧、糖尿病、脂質異常症(コレステロールや中性脂肪が高い病気)など、生活習慣と関連して発症する病気のことを指す。しかし、食習慣や運動習慣の改善、肥満の解消、禁煙などによる病気の予防を重視する観点から、1996年頃に「生活習慣病」と呼ばれるようになった。

生活習慣病に共通するのは、自覚症状がなく、気づかないうちにゆっくりと体を蝕んでいく、という性質だ。 高血圧や糖尿病、脂質異常症、喫煙などは動脈硬化を加速させる。これが心臓や脳の血管にダメージを与え、心筋梗塞や脳卒中といった致命的な病気を引き起こすのだ。

もちろん、これら以外にも、肝臓や腎臓、肺など、生活習慣病によって蝕まれる臓器は多くある。ただし、生活習慣病の原因は「生活習慣だけ」にあるのではない。

「病気になったのは自己責任」といった偏見はよくあるのだが、病気の原因はそれほどシンプルなものではない。

がんになった人のうち男性で30%、女性で5%は喫煙が原因とされ、喫煙者は非喫煙者より寿命が8~10年短く、1本タバコを吸うたび寿命が11分短くなる、といわれている。

人が死ぬ大きな原因に「加齢」があることを忘れてはならない。現在、死因の上位には老衰と肺炎が含まれており、これらは年々増加しているが、いずれも加齢が主な原因である。

老衰はもちろん加齢そのものだが、肺炎についても、医療水準の高い国では主に高齢者の命を奪う病気だ(かつて上位を占めた肺炎とは意味合いが異なる)。

一方で、若い人は高齢者に比べ肺炎による死亡率が圧倒的に低い。 年齢とともに呼吸器の機能が落ちて肺炎になりやすくなる上、肺炎にかかった後も、抵抗力の低さゆえに致命的になりやすいのだ。

「誤嚥」とは、「誤って嚥下すること」、つまり、本来食道に入らなければならない食べものが気管側に入ってしまうことだ。高齢になるとこの機能が衰えるため、そのまま肺炎を起こしやすい。 その点でも、高齢者の肺炎は「高齢であること」そのものが原因と考えられるケースが多く、その場合は老衰と医学的には区別しにくい。

なお、人が死亡する確率は年齢が上がるほど高くなるため、死因の上位を見るだけでは、必然的に「中高年層は何が原因で亡くなるか」しか見えてこない。10歳代~30歳代の死因一覧を見ると、国民全体の順位には反映されない、全く違った死因が並んでいることに気づく。

このように、「人は何が原因で死を迎えるのか」という命題に答えるには、年代ごとに異なる特徴を理解した上で議論する必要があるのだ。

出典:https://diamond.jp/articles/-/285252

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