リモートワークの普及に伴って関心が高まった都市部から地方への移住。小説家の樋口明雄氏が暮らす北杜市も、コロナ禍以来、移住者が増加しているという。
ここ北杜市は、コロナ禍以来、確実に移住者が増えた。最近の移住者の特徴は、地元に溶け込まず、孤立して生活している人が増えた──市役所の担当や不動産業の関係者は、そんなことを私にいった。
その土地に光回線が来ているかとか、とにかくインフラが重視される。もちろんリモートワークのためである。仕事の場として、新しい土地にやってくるわけだ。
そういう人たちの中には、都会の流儀を田舎に持ち込んでくるタイプが多い。引っ越してきても、隣近所に挨拶もしなかったり、地元の人たちとすれ違っても、目も合わせない新住民が多いそうだ。
一方で損得勘定だけは異常に発達していて、ただなものは使い放題。もちろんエコロジーという概念はまったくないから、道端に平気でゴミを捨ててゆく。
新住民の中には、地元のやり方に対して意味もなく反発したり、気にくわないとクレームをつけたりする人もいる。それでいて、自分は何もしようとしない。 けっきょく周囲との関係を拒絶し、自ら断ち切ってしまう。 つまり孤立状態である。
昔から、ひねくれたり偏屈な移住者はいたが、最近はとみに増えた気がする。そんな連中のことを、私は“モンスター新住民”と呼ぶ。そうした“身勝手なよそ者”は老若男女の分け隔てなく存在するが、若い人たちよりも中高年に目立つような気がするのはなぜだろう?
都会流を引きずってやってくる人たちには、断乎としてこういいたい。都会の常識は田舎の非常識。
では、田舎暮らしの本当の価値とは、いったいどこにあるというのだろうか? 20年の生活で得られた結論。 それは「人」である。何よりもまず、いろいろと苦労を重ね、家族の大切さがわかった。 のみならず、周囲に暮らす人々。さまざまな人たちとの関わり。 それこそがこの土地における宝物だった。
2014年の大雪のとき、夫婦連れで暮らしていた山奥の別荘で、夫が持病の発作を起こして倒れた。ところが救急車を呼ぼうにも、雪で入っていけない。
報せを受けて地元の新旧住民が力を合わせ、除雪機やパワーショベルで雪かきをして、倒れた本人を病院まで搬送できた。
それも人同士のつながりがあってのことだ。そんなふうに頼り、頼られる。それが田舎暮らしの価値だといえる。