頼れる親族などがいない“身寄りのない高齢者”が増えています。名古屋市の社会福祉協議会では、亡くなった後の葬儀や家財の処分などについて、生前に本人の意向を確認しておくなど、「終活」を支援する事業を始めています。
2022年5月、名古屋市北区の葬儀場。お棺に収められているのは、76歳で亡くなった女性。頼れる親族などがいない女性のもとに焼香に訪れたのは、名古屋市社会福祉協議会の職員たちです。
葬儀はせず、他に訪れる人もない簡素な出棺は、亡くなった女性が望んだ形でした。この女性のような“身寄りのない高齢者”を対象に、「終活」を支援する事業がいま注目されています。
名古屋市社会福祉協議会には、以前から身寄りのない高齢者から死後の葬儀や家財の処分のことや、病院に入院する際に緊急連絡先として頼める人がいないといった相談が寄せられていました。
名古屋市社会福祉協議会の野川すみれさん:「身寄りのない高齢者の方で、『自分が亡くなったあと誰に頼んだらいいのか』不安の声も多かった」
そうした声を受け、2021年2月から「エンディングサポート事業」を始めました。名古屋市在住で、子供や孫がいない、50万円以上の預託金を支払えるなど、いくつか条件を満たした70歳以上を対象に死後の手続きなどを支援する事業です。これまでに23人と契約を結びました。
契約者の死後は、電話や電気などの解約をはじめ、事前に預かった預託金で葬儀費用や家財の処分、病院や介護施設への支払いなどを済ませます。こうしたサービスで最も重要になるのが、契約者の意思です。
独自に作成したエンディングノートに意向を書き込んでもらって、把握しておきます。財産の整理や葬儀、納骨の希望などを確認することになっていて、契約にあたっては1つずつ職員と一緒に決めてもらうようにしています。
この日、名古屋市社会福祉協議会の野川さんは、契約者の自宅を訪問。この事業のもう一つの柱が、契約者の見守り活動です。
毎月1回電話するほか、半年に1度は直接会って様子を確認します。体の具合や暮らしぶりをみるだけでなく、趣味や好みを知るのも大事な目的です。
この日訪ねたのは、北区の永田佳代子さん(仮名)80歳。29歳の時に結婚しましたが3か月ほどで離婚。子供はなく50年1人暮らしです。
愛知県内に3人の妹が住んでいますが、距離が離れているうえ、自分と同じく年老いた妹たちには何かあった時に頼るのは難しいからと、2021年の秋に社協と契約しました。
定期的に食事に出かける仲の良い友達はいるそうですが、葬儀などで手間をかけさせたくないといいます。
永田さん:「お葬式は希望してないけどシンプルで、みなさんにお世話をかけない方法が一番望むところ」
国も“身寄りのない高齢者”の正確な人数を把握していません。未婚率の増加などから、今後確実に増えることが見込まれています。もし身寄りのない人が亡くなると、遺体を引き取る親族を探し出したり、火葬をするのは自治体の仕事になりますが…。
市は、「他の業務が忙しく後回しになってしまった」と釈明しましたが、増加する“身寄りのない高齢者”に自治体の対応が追い付けなくなっているのでしょうか。
専門家は、日ごろから身寄りのない高齢者を孤立させない取り組みが重要だと指摘します。
日本福祉大学の藤森克彦教授:「日本は、家族の中だったら迷惑かけていいけど、家族以外に迷惑かけるのに心理的なハードルが非常に高い国。でも身寄りのない方が増える中で、家族以外の支え合いをどう作っていくか。身寄りのない方々がつながっていけるような居場所をどう作るかは、考えていかなきゃいけない」
誰にも必ず訪れる人生のエンディング。身寄りがなくても納得した終わり方を迎えるために今、新しい形が求められています。
引用元:https://www.tokai-tv.com/tokainews/feature/article_20220626_19062