福祉新聞より
三重県伊勢市の「みどり保育園」(社会福祉法人一宇郷福祉会)は地域の高齢者らを招き、園児が給食の配膳でもてなす「保育園レストラン」を月1回開催している。住民の大半が高齢者で人口減が進む山間部にあり、「保育園から地域に元気を届けよう」と始めた試みは、今年で9年目を迎える。
参加者は市内の高齢者を中心にリピーターが多い。10人ほどが訪れるが、コロナ禍では5人までとしている。メニューは園児が食べる給食を大人用にアレンジしたもの。食材費は参加者の負担と市の補助金で賄う。
園児が担当するのは配膳のみ。大人がゆったりできる空間を心掛けている。参加者は園児と一緒に食事をしない。園児との交流は食事の準備ができるまでで、レストラン常連で元教員の松谷綾子さんによる紙芝居の読み聞かせや園児の歌の披露などがあり、大いに盛り上がる。
昨年12月に参加した僧侶の城山大覚さんは「こどもからパワーをもらった。交流を深めて一緒に地域を盛り上げたい」と話す。倉世古久美子園長は「この日を心待ちにするお年寄りが多く、皆さん笑顔で帰っていく。自力での参加が難しくなれば、送迎で対応したい」と意気込む。
同園は市街地から車で約30分の矢持町にある。人口は68人、住民の大半が高齢者だ。「地域にこどもの声を残してほしい」――。地域住民の声を背負い、同園は1979年、廃校になった旧矢持小学校の校舎を使って開設された。近隣にこどもがいないため、園児全員が市街地などから送迎バスで通っている。1人暮らしの高齢者が増える状況を危惧した倉世古園長が2014年にレストランを始めた。
ただ、今後の継続には不安もある。園児数は減少し、ここ数年は定員(40人)を下回る状況が続いており、現在は23人だ。園児数に基づき委託費が決まるため、積み立てを切り崩しての運営になっている。
「こどもがいなければ園が存続できないし、園がなければレストランは継続できない」。倉世古園長の危機感は強い。来年度から定員を30人に変更することを見据えるほか、認定こども園化も含めて園の在り方を模索する真っただ中だ。
こうした状況でも地域貢献を停滞させる気はない。昨年、保育士と園児で「お助け隊」を結成。散歩ついでに高齢者宅を訪問し、肩たたきや草抜きをして交流している。「お金を掛けず、地域に元気を届けられる方策を考え、可能な限り続けたい」。