東洋経済オンラインより
有識者会議では、人と人が自然と「つながり」を実感できるような居場所づくりを社会政策に取り入れていくべきだと提言してきた。
数年前、東京郊外のある街で、市が無料入浴施設を取り壊す決定をしたところ、地元の高齢者たちが反発する一幕があった。その施設は高齢者たちが毎日のように通い、風呂に入るだけではなく、お茶を飲みながら談笑したり囲碁や将棋を楽しんだりするなど、憩いの場として機能していた。
市としては老朽化した建物を放置するわけにはいかないという判断だったようだが、高齢者のコミュニティースペースを取り壊して民間のスポーツジム運営企業を誘致するという策は社会政策として妥当だったのか。とくに目的がなくても集まれるような場が過小評価され、スポーツ施設のような明確な目的がある施設に価値が置かれるような政策評価でいいのか。
孤独・孤立に陥る人が増えた背景には中間層の消滅がある。内閣府の調査でも、非正規雇用で年収が低い人や未婚の人の孤独感が強かった。格差が広がり、経済は25年以上も停滞。年金だけでは暮らしていけず、先々に不安を覚える高齢者が増えている。
そうした高齢者たちが自然と集まれる場所が必要なのだが、「孤独防止センター」といった看板なら、人は寄りつかない。だから無料入浴施設のような、自然と人が集まる場が貴重なのだ。
孤独・孤立に陥っている高齢者ほど詐欺被害に遭いやすいという調査研究もある。個人が保有する金融資産残高は約2000兆円。うち75歳以上が600兆円、全体の30%以上を占める。今後、懸念されるのは認知機能が低下した高齢者の増加だ。
高齢になると自身の認知機能の低下を自身では認識できなくなり、他人の指摘よりも自身の判断力や金融リテラシーを過大評価する「自信過剰バイアス」が強まる。男性で、学歴が高く、金融取引の経験がある人ほど陥りやすい。
認知機能が落ちているのに「俺は得意だぞ」という意識だけはしっかり残ってしまうからだ。詐欺集団がターゲットにするのは、まさにこのような高齢者である。
どうやったら孤独感を解消できるかといった小手先の話ではなく、根本的な社会政策が必要なのだ。