デジタル技術が進化し、社会のあらゆる分野でデジタル化が進んでいます。インターネットやスマートフォンに不慣れな高齢者が取り残される「デジタルデバイド（情報格差）」の解消が重要な課題となっています。高齢者向けのスマートフォン教室や相談会などを通じて、通話機能以外の使い方を教え、定着させる取り組みが活発になっているのです。
東京都墨田区が2021年度から始めたデジタルデバイド解消事業には、平均年齢80歳の区民約50人が、3～5人のグループに分かれて参加しています。彼らは日々の出来事に関するコメントや、お気に入りの風景を収めた写真画像などを、スマートフォンを通じて投稿し合っています。「仲間と楽しみながら、スマホの“日常使い”を定着させる」（高齢者福祉課）という狙いがあるのです。
この事業の背景には、新型コロナウイルスワクチン接種を巡り、インターネットが使いこなせない高齢者が予約に手間取ったという苦い経験があります。そこで、区は行政手続きのオンライン化を進めるにあたって、区民の意識調査で、70歳以上のスマートフォン保有割合が約6割に上る一方で、「通話以外に機能を使いこなせない」との声が多い点に着目しました。スマホでの文字入力や写真撮影・投稿の習慣化を支援するアプリ「みんチャレ」の開発会社エーテンラボ（東京）と連携し、対策に乗り出しました。
2023年度はさらに参加者を増やすほか、スマホ操作に関する相談会を開いて、活用に興味を持つシニア層のすそ野を広げていきたいと考えています。参加者の一人でスマホを使い始めて約1年の矢後悦子さん（87）は、「散歩中に地図を調べたり、バスなど公共交通の乗り換え案内を検索したりと、スマホの利用の幅が広がった。行政手続きでも積極的に使いたい」と語っています。
「みんチャレ」は2022年度時点で、東京都府中市や堺市など全国13自治体で活用されており、2023年度はさらに広がる予定です。府中市などは、デジタルデバイド対策と併せて、高齢者の健康作りや社会参加を通じた介護予防にもつなげる効果を期待しています。
デジタルデバイド対策の事例として、以下のような取り組みがあります。
・情報通信会社と連携し、スマホの基本操作やネット詐欺対策などを指導（茨城県古河市）
・公民館の職員が「スマホコンシェルジュ」として相談に応じる（千葉県船橋市）
・市民ボランティア「シニアスマホアンバサダー」が講習会や相談に対応（石川県加賀市）
・地元の公益財団法人が県内の公民館などと連携してスマホ体験教室を開催（徳島県）
・シルバー人材センターがスマホ初心者向けに講習会を実施（熊本市）
また、三菱総合研究所など3社は2023年度から、連携して健康長寿をテーマにしたデジタルサービスを始めました。地域のシニア向けスマホ教室の開催や、スマホを使った行政手続きのサポート、オンライン上でのフィットネス教室、体力測定といったメニューをそろえています。
総務省の通信利用動向調査（2021年）によると、年代別のインターネット利用率は60歳代で84％、70歳代で59％、80歳以上で27％となっています。政府は「デジタル田園都市国家構想総合戦略」で、高齢者らにデジタル端末の利用方法を教える「デジタル推進委員」を、2027年度までに全国で5万人確保することを掲げています。
これらの取り組みを通じて、高齢者もデジタル技術を活用できるようになり、情報格差の解消につながることが期待されています。デジタルデバイドの縮小は、高齢者が社会に参加しやすくなり、健康で活発な生活を送ることにも寄与します。
また、デジタル技術の活用は、遠隔地や孤立した高齢者とのコミュニケーションや、医療や福祉サービスの提供にも役立ちます。例えば、オンライン診療や遠隔医療によって、地域による医療格差の緩和が期待されています。さらに、デジタル技術を活用した介護サービスや健康管理アプリケーションも、高齢者の健康維持や介護予防に役立つとされています。
しかし、デジタルデバイドの解消に向けては、高齢者だけでなく、地域社会全体が協力し合うことが重要です。家族や近隣住民、地域の団体や企業が一体となって、高齢者のデジタル技術へのアクセスや利用をサポートすることが求められます。また、高齢者自身が積極的にデジタル技術に触れ、学ぶ意欲を持つことも大切です。
デジタルデバイドの解消は、高齢者のQOL（Quality of Life：生活の質）向上に繋がるだけでなく、地域社会全体の活性化や、持続可能な社会の実現にも寄与することができます。これからも、高齢者向けのデジタル教育やサポートが充実し、情報格差のない社会が実現されることを願っています。
参考記事：https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20230405-OYTET50000/
