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【高齢者専用弁当屋配達員】写真家・福島あつしが写す独居老人の“食”と“生”

写真家の福島あつしさんが宅配弁当を手に独居老人の家を訪れ、撮影した作品集『ぼくは独り暮らしの老人の家に弁当を運ぶ』(青幻舎)を出版した。福島さんに聞いた。

写真集を開くと、薄汚れた台所に積み上げられた鍋や食器が目に飛び込んできた。ほこりが積もり、クモの巣が張っている。

2004年、福島さんは東京綜合写真専門学校研究科に入学した。「横浜市の日吉で1人暮らしを始めたんです。それで、何かいい仕事はないかな、と思って、アルバイト情報誌を開いたら、漢字の羅列(られつ)に目がとまった」そこには「高齢者専用弁当屋配達員募集」と書かれていた。

「なんか、変わった仕事だな、と思って。興味をそそられた」それは独居老人の家に弁当を届ける仕事だった。親族から許可を得ている場合は、部屋の中まで足を運び、弁当を届けた。店長から「この仕事には安否確認も含まれているんだよ」と、教わった。

仕事にも徐々に慣れていったある日、店長から思いもよらない声をかけられた。

「福ちゃん、写真の勉強をしているなら、お客さんの写真を撮ってみたら?」

~中略~

「この仕事を始めるまで、日本はとても豊かな国だと思っていた。老後は、おじいちゃん、おばあちゃんが縁側でお茶をすする、みたいなイメージを抱いていた。ボケずに、体も悪くならず、ぽっくりと死ぬと思っていた。それがこの現場に足を踏み入れたことで、全部ガラガラと崩れてしまった。人生のゴールテープの直前って、こうなんだ。自分も最後はこうなるのか、というのを毎日、まざまざと見てきた。写真を撮ることで、その世界ともろに対峙してしまった。生きるって、こんなにつらいのか、と」

ようやく、「答え」が見つかったのは13年、「ギャラリーをやっている神戸の友人が、『写真展をやろう』と言ってくれて」、個展「弁当の味」を開いたときだった。会場を訪れた一人がこう言った。

「福島君の写真を眺めていると、最初は、うわーっ、かわいそうだな、つらいな、と思う。自分の親とか、自分の将来を考えたりする。でも、ずーっと見ていると、なんか死から生に転換する瞬間があるんだよ」

その言葉を聞いたとき、「すべてが氷解した。いままで、自分が何を撮りたかったのか、わかった」。

それまで、福島さんは彼らに忍び寄る死を撮影しているものとばかり思っていた。

「ほんとに、孤独なのがわかるんですよ。つらいし、悲しいし、『もう死にたい』とか言う。でも、ぼくがお弁当を渡して、次のお客さんのところに行くときにはもう、その弁当を食べている。それって、ほんとうにすごいな、こんな状況でも人は生きていくんだ、と。ぼくは人間が生きるしぶとさや力強さにずっと感動していたことにようやく気がついた」

出典:https://dot.asahi.com/dot/2021100800062.html

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